遅刻・欠勤を繰り返す社員への対応

遅刻や欠勤を繰り返す社員は同僚従業員のモチベーションを下げます。

このような社員に対しては、記録に残しながら指導を行うことになります。

それを繰り返しても、改善しないようであれば、退職させるための話し合いを行い、退職に導くことになります。

今回は、弁護士が遅刻・欠勤を繰り返す社員への対応をご助言します。

1 解雇には事前準備が必須であること

確かに、欠勤・遅刻・早退等を繰り返す従業員は次のような解雇事由に該当することが多いです。

 

●●条 次の各号の一に該当する従業員を解雇することがある。

・・・出勤常ならず勤怠が不良であるとき 

 

また、14日以上無断欠勤をするような従業員などは懲戒解雇等の対象にもなりえます。

「労働者の責めに帰すべき事由」として認定すべき事例を挙げれば、(中略)原則として2週間以上の正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合(後略) 

 (参考:S23/11/11基発1637、S31/3/1基発111)

 

しかし、注意指導をせずにいきなり解雇した場合には、解雇が無効となり、多額の賃金を払い復職させる必要が生じ得ます。下記の裁判例(決定例)は遅刻等を放置したために、解雇が無効となった事案です。

 

(参考:大阪地裁H14/5/9決定(労働経済判例速報1810-23)

・この事案では、工場長であるXが3年余りにわたり恒常的に遅刻(午前8時が始業であるにもかかわらずほぼ毎日11時以降に出勤等)を繰り返していました。そのため、会社は、Xを解雇(H13/9/19)しました。Xは解雇を争い訴訟を提起しました。

・裁判所は、次の理由からXの解雇を無効と判断し、会社に対して、Xの復職と解雇日以降の賃金支払いを命じました。

 ・これらの遅刻は、懲戒事由ともなりうるとされているにもかかわらず,債務者において、債権者に対し,本件懲戒解雇に至るまでの間,何らの懲戒処分も行っていない

 ・約2年後の平成12年6月29日には取締役へ就任させていること,債権者は,大阪市にある本社に,毎週月曜日の午前8時30分より開催される連絡会議や毎月第4土曜日に午前10時から開催される月例会議やその他の会議に出席していること

そのため、遅刻・欠勤・早退等を繰り返す従業員についても、適切な注意指導等を重ねることが必要になります。

2 注意指導の進め方

① 遅刻・欠勤・早退等の裏付けを確保する。

〇タイムカード、出勤簿等を活用します。具体的に「何月何日に何分遅刻した」という事実を確定させます。

〇また、遅刻等の原因について、労働者に都度確認し、正当な理由のない欠勤であることを確認します。この原因は大まかに次の4点に分かれます。

 

①病気による欠勤等 

②育児・介護に伴う欠勤等

③震災等の天変地異によるもの

④その他の理由(寝坊、公共交通機関の遅れ等)に整理できます。

 

※要注意:有給休暇は、欠勤ではありません。従業員が事前に有給休暇を申請していたにもかかわらず欠勤扱いとすることは、原則的に労働基準法39条違反となります。

 

 ①~③は原因ごとの対応を講じます。次はその対応の例です。

 

  • ①病気による欠勤・遅刻が繰り返される場合

この場合、休職等により治療の機会を与えることが考えられます。治療の機会等を与えたにもかかわらず勤怠不良が継続する場合には、解雇や休職期間満了による退職を検討することになります。

 

  • ②育児・介護に伴う欠勤等が繰り返される場合

この場合、育児介護休業法や就業規則に則った所定の休業・休暇を付与します。これらの休業・休暇を超えて欠勤等が続く場合には、雇用契約の内容を変更する等の対応を検討することになります。

 

  • ③震災等の天変地異による欠勤の場合

事案によりますが、特別の休業等を与えることが考えられます。

 

④については、基本的に正当な理由がないものとして扱うことになります。ただし、他の従業員との公平性や有給休暇の残日数等は考慮することが必要です。

② 裏付けに基づき注意指導書を交付し注意を行う。

・①の裏付けを基に注意指導を行います。

 

・次のように具体的な遅刻の事実を指摘することが重要です。

 

 厳重注意書

貴殿は、●●年●●月●●日から●●日にかけて、次のとおり遅刻をしました。

 記 ●●日 ●●分 ●●日 ●●分 ・・・

 貴殿が遅刻を繰り返したことは、当社の就業規則の「出勤常ならず勤怠が不良であるとき」との懲戒事由に該当する行為であり、改善が見られない場合には、懲戒処分を行わざるを得ません。

 以上

※注意指導書は、裁判の証拠にもなる書面です。また、この指導時の言い方が不適切な場合にはパワハラとなり別途のトラブルに発展することもあります。そのため、弁護士のサポートの下で注意処分を行うことをお勧めします。

③ 遅刻等を繰り返す場合には懲戒処分を行う

・②でも遅刻等を繰り返す場合には、懲戒処分を行います。

・就業規則に規定がない、就業規則が周知されていない場合等の懲戒処分ができない場合には、警告を繰り返すことになります。

・懲戒処分にあたっては、先立って弁明を確認する機会を設けます。

・その上で、懲戒処分通知書を作成し、懲戒処分を通知することになります。

 

④ 遅刻等が減らない場合には退職に向けた話し合いを行う。

・遅刻等が繰り返される場合には、どのような弊害が生じているのか等も整理をしたうえで、退職に向けた話し合いを行います。

 

・例えば、次のような話法でお伝えすることになります。

貴方は、●●年●●月●●日から●●日まで、次のように欠勤をしましたね。

その後、当社からも注意指導や懲戒処分を行いました。

しかし、それでも貴方の欠勤は治っていません。

当社としても貴方が出勤をしないため、貴方に仕事を振ることができませんし、他の従業員からも●●という苦情を受けています。実際に●●の件では、外部から苦情も出ています。

これらを踏まえると、当社としては、貴方を雇い続けることは困難と思っています。この点について、貴方のお考えを教えてください。

 

このような話を重ねて、合意により退職してもらうことがベストとなります。

 

【注意点】

退職勧奨は話し方を誤ればそれ自体がパワハラとなったり、退職強要とされて退職届が無効となったりするなどのリスクがあります。特に退職勧奨がパワハラとなった場合、退職勧奨を拒否して欠勤し続けている間、解雇ができないという事態に陥ることもあります。そのため、弁護士のサポートの下で台本を準備して臨むことをお勧めします。

 

⑤ 解雇の可否を検討し、解雇する場合には解雇を通知する

・退職合意が成立しなかった場合には、欠勤・遅刻等の態様を踏まえて、解雇に踏み切ることが考えられます。ただし、解雇に踏み切るか否かは、法的リスク等を踏まえて個別に判断することになります。

3 まとめ

 

欠勤・遅刻・早退等を繰り返す従業員には、注意指導を適切に行うことで対応することになります。

 

もし、現時点で欠勤・遅刻・早退等を繰り返す従業員がいる場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

 

注意指導等は解雇にあたって必要になりますが、方法を間違えてパワハラ等になってしまえば、退職させることも不可能になりかねないためです。

 

 

労働問題に詳しい弁護士は次のようなサポートを行うことができます。

 

・欠勤・遅刻・早退等の証拠収集

 

・厳重注意書等と面談時の話法を整理した台本作成

 

・退職に向けた話し合いの台本作成・退職合意書の作成

 

・解雇する際の解雇通知書等の作成

 

すでにお悩みの場合には、弁護士へのご相談をお勧めします。