病気で欠勤している従業員を解雇する前に、診断書の提出を要求する必要があるのか〔水戸地裁R6/4/26〕

長期間欠勤する従業員がいる場合、会社としては、解雇も検討せざるを得ません。しかし、病気で欠勤している従業員を解雇する際には、事前に、従業員が本当に回復をしていないかを確認することが重要です。

今回は、裁判例を題材に、病気で欠勤する従業員を解雇する際の注意点(特に診断書の提出要求)について確認します。

1 裁判例

(1)情報

・水戸地裁R6/4/26判決

・労働判例1319ー87等

 

(2)事案の概要

・労働者(原告Bともいう)は、令和3年2月3日C参事から勤務時間中にゲームをしていたことを叱責されました。そうしたところ、労働者は、翌日(令和3年2月4日)以降、抑うつ状態を理由に会社に出勤しなくなりました。医師も「職場でのストレスが強く抑うつ状態であり休養を要する」との診断をしていました。

・会社は、令和3年3月17日頃、欠勤理由の説明を求め、同月30日には、病状等をD専務又はC参事に報告するように求めました。

・その後、労働者は、労働組合に入り、抑うつ状態が労災である等と主張して、団体交渉を行いましたが、出勤はしませんでした。

・そこで、会社は、令和4年1月23日、労働者が抑うつ状態により業務に耐えられない状態にあることを理由に、同年2月22日限りで解雇するとの意思表示をしました(本件解雇2)。

・そうしたところ、労働者は、解雇の無効を争ってきた事案です。

 

【争点】

本件解雇は有効か

 

【労働者側の主張】

被告は、原告Bに対し、病状や復帰の見込みを十分に確認することなく、原告Bを解雇した。

解雇は不当である。

 

【会社側の主張】

原告Bは、約1年欠勤を続けており、被告就業規則第47条第1項の「身体、精神の障害により、業務にたえられないとき」に該当する

原告Bから症状の説明等は一切なかった。

 

(3)判断

・労働者の主張が認められ、解雇は無効となりました。

 

(4)理由

「原告Bの抑うつ状態は、少なくとも被告での業務と無関係に生じたものであったということはできない。〔中略〕被告においては、原告Bの欠勤の理由が抑うつ状態にあること、かかる抑うつ状態が被告での業務に起因するものである可能性があることを認識していたものと認められる。そうすると、被告としては、原告Bの解雇を検討するに当たり、原告Bの病状の詳細を把握し、その状態に応じて配置可能な業務の有無も含め、原告Bの職場復帰の可能性を慎重に検討することが求められるというべきである。」

「しかしながら〔会社は〕病状等の報告を一切求めることなく、原告Bが精神の障害により業務に耐えられないとして解雇しており、その判断は早急に過ぎるものといわざるを得ない。」

「〔確かに原告Bが診断書等を提出していないという事情は認められるが〕抑うつ状態にある原告Bに対して、自発的な病状の報告等を求めることは酷な面もあり、上記のとおり、被告としても労働組合を通じるなどして病状等の報告を求めることも可能であった以上、原告Bが自発的に報告等をしなかったことをもって、直ちに本件解雇2の相当性が基礎付けられるものではなく、このことは上記判断を左右しない。」

2 労務管理のポイント

・病気を理由に欠勤している従業員を解雇する前には、診断書等を取得し、回復の可能性があるか確かめる。

・直接の確認が困難な場合には、弁護士等を通じて、確認を試みる。

 

(1)診断書の提供を求めること

本件では、労働者は11か月病気で欠勤しています。このように長期間の欠勤の場合でも、診断書で治療経過等を確認せず解雇するのは「早急に過ぎる」とされてしまいます。

裁判所は、過去にもメンタル疾患で休んでいた従業員を解雇した事案で、主治医に確認せずに解雇したこと等は「メンタルヘルス対策の在り方として,不備なもの」と断じて、解雇が不当と判断し、定年までの賃金の支払いを命じたことがあります(東京地判平成22年3月24日)。

このため、病気で働けない従業員を解雇する前には、診断書等の提出を求めて、本当に回復可能性がないのか、チェックすることが重要です。

 

※本件では労災が疑われたという事情もあります。その意味では、より一層慎重に行動すべきであった事案とも言えます。

 

※本件で、労働者の休業は、会社の責めに帰すべき事由によるものとされています。本件解雇等が不当とされたために、会社は賃金3年分(中間収入の控除前で900万円)の支払いを命じられました。

 

(2)直接の確認が困難な場合には弁護士を通じて確認する

裁判例の中には、会社が病気の原因である場合に、会社が休業中の労働者に直接接触すること自体が安全配慮義務に違反すると判断した事案もあります(京都地裁H28/2/23判決)。このため、「従業員との接触を求められる一方で従業員と接触してはいけない」板挟みの状況に陥ることもあります。

 

このような場合には主治医を通じて連絡を取るなどの工夫が必要です。また、代理人弁護士を通じて連絡を行うことでリスクを低減することも可能です。

 

場合によっては従業員が診断書等を出さないこともあります。しかし、会社としてできる限りのことをした(努力を尽くした)と法的に認められた場合には、会社に有利な判断となる可能性もあります。

 

弁護士のサポート等を受けながら、会社として「できる手は尽くした」と法的にも言える状況を作ることが大切です。