復職後も欠勤しがちな従業員を解雇する際にはどのような手順を踏むべきか〔東京地裁R3/10/20〕

A」 数か月程度、欠勤等の頻度を記録した上で改善に向けた指導や配置換えなどを行います。それでも欠勤等を繰り返す場合には、医師の判断も経たうえで、就労不能の場合には解雇を検討することになります。

 

精神疾患で休職して復職した後に、従業員が週1回程度の遅刻を続けるなど、本調子ではない状況が続くことがあります。週1回でも遅刻や欠勤が続くと業務への支障も出るため、早急な対応が必要です。

 

今回は、最新裁判例を題材に対応を検討します。

1 裁判例

(1)情報

・東京地裁R3/10/20判決(労働判例1313-87)

 

(2)事案の概要

・労働者は平成27年3月に適応障害となり、以降、2年間休職した後に、平成29年7月31日に復職した従業員です。

・労働者は、復職時に、部署Aに、時短勤務(始業を30分遅らせ、終業を30分早める1時間の時短)となりました。この時短勤務は平成30年4月27日まで続きました。この間、労働者は、おおむね週に1回の頻度で通院のため欠勤又は早退をし、体調不良により欠勤するなどし、しかも、営業成績は0が続きました。

・会社は、労働者の勤務状況や成績も踏まえ、5月1日から、労働者の時短を止め、部署Bに異動しました。しかし、労働者は、同年5月1日以降も週1回の頻度で通院を理由に早退等を繰り返しました。

・会社は、同年8月23日、労働者に対し、配属後3か月を経過しても月4回程度通院早退し、欠勤5回、電車遅延遅刻4回、私事都合早退2回するなどの状況では業務に支障がある旨を指導しました。

・すると、労働者は、指導に不満を述べ、同年10月18日以降、再び、適応障害を理由として医師の診断書を取得し欠勤し続けました。その後、医師の診断書でも就労再開時期は不明である旨判断されました。

・原告は、平成31年2月28日に到達した解雇通知書で、A1に対し同日をもって解雇する旨の意思表示をした

・この解雇の正当性が問題となった事案です。

 

争点 本件解雇は合理的な解雇か否か

 

(3)結論

解雇は正当である。

 

(4)理由

「A1〔注:労働者〕はV1医師やQ1医師の意見を踏まえても、適応障害のために就労することができず、かつ、適応障害が治癒して従前の職務を通常の程度に行うことができる健康状態に回復する見通しも立っていなかったといわざるを得ず、また、原告においてA1が就労可能となる見込み等についての確認を怠ったともいえない。」

「〔就業規則上〕、休職期間は最長でも2年であるが、A1は2年以上にわたって休職し、復職した後も時短勤務措置を継続し、時短勤務措置終了後も週1回の通院を続け、さらに体調不良を理由に欠勤〔し〕再び適応障害により4か月以上の欠勤をしたというのであって、〔通算規定や当然退職規定もあるから〕本件復職①後にA1との労働契約関係を維持した上で再びA1を休職させることは就業規則上も予定されていなかったといえる。」

「A1の就労不能は〔中略〕解雇事由に該当し、客観的に合理的な理由に基づくもので、社会通念上相当」である。

 

2 今後の対応のポイント

・復職時には所定労働時間勤務できるかをチェックする

・欠勤・遅刻・早退の頻度と業務への支障は記録を残す

・解雇に先立って就労できないか産業医や主治医から意見書を取得する

 

(1)復職時には所定労働時間勤務できるかをチェックする

この事案では、労働者は、最初の休職からの復職に際して、時短勤務となっていました。

時短勤務が必要な状況というのは、心身が所定労働時間の就労には耐えられないという状況です。このような状態で復職をさせることは、可能な限り避けることになります。

 

※本件は、労働組合が関与しており、労使関係が非常に対立的な状況でした。このため、会社は、このような労使環境も考慮して復職を決めたのだと思われます。そのため会社が時短しかできない状況で労働者を復職させたのは無理からぬこととも思われます。

 

(2)欠勤・遅刻・早退の頻度・指導等は記録を残す

本件では、遅刻等の頻度が週1回程度と特定できています。日々の勤怠記録を残したため、具体的な説明ができたものと考えられます。

また、すぐに解雇するのではなく、配置転換や注意指導を行っています。これらの措置により、できる限り解雇を回避しようとしたことが、裁判所に評価されています。

そのため、遅刻等の勤怠不良の頻度を記録するとともに、指導、配置転換等の解雇回避措置を講じることが重要です。

 

(3)解雇に先立って就労できないか産業医や主治医から意見書を取得する

会社は、二回目の欠勤開始後、4か月程度様子を見た上で、解雇に踏み切っています。また、解雇に踏み切る前に、産業医等の意見を確認しています。

これらの意見聴取を怠ると、それが原因で解雇が無効になることもあります。

 

>>>病気で欠勤している従業員を解雇する前に、診断書の提出を要求する必要があるのか〔水戸地裁R6/4/26〕

 

そのため、解雇に先立って意見聴取を行うことになります。

 

3 まとめ

会社は、平成29年7月31日から平成30年10月18日の欠勤再開まで、辛抱強く対応しています。労働問題に詳しい弁護士がサポートすることで、上記2を踏まえた対応が可能となります。