Q自爆営業はパワハラになるのか?最新リーフレットと裁判例を基に解説

Q 最近の報道で「自爆営業がパワハラである」という話が出ています。「自爆営業」に関して会社が気を付けるべきことはありますか。また、当社では従業員に商品(単価1万円程度の金融商品)の販売ノルマを課しており、中にはノルマが達成できない人が自分で商品を繰り返し買っているとも聞きます。何か気を付けるべき点はありますか。

1 自爆営業に関する法的問題点

厚生労働省は、2025年4月に「労働者に対する商品の買取強要等の労働関係法令上の問題点(いわゆる「自爆営業」を含む)」と題したリーフレットを発表しました。

(参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001462034.pdf)

 

この中では大きく次の4ケースが「問題となる事例」として挙げられています。

 

①使用者としての立場を利用して、労働者に不要な商品を購入させた

②労働者に対して自社商品の購入を求めたが、労働者がこれを断ったため、懲戒処分や解雇を行った

③従業員ごとに売上高のノルマを設定しており、ノルマ未達成の場合には人事上の不利益取扱いを受けることを明示していたところ、ノルマ達成のため、労働者自身の判断で商品を購入した

④現実的に達成困難なノルマを設定し 、ノルマ未達成の場合には人事上の不利益処分を行うこととしている

 

これらのケースを整理すると、以下の3つのパターンに区分できます。パターンごとの問題点と対応策は次のとおりです。

 

2 そもそもノルマが不当なパターンとその対応

上記④のケースです。不合理に過大なノルマを設定することは、業務上の相当性を欠く業務指示とみなされ、パワーハラスメントに該当する可能性が非常に高いです。

 

対策としては、過去の実績、販売予測等の数値上のデータを基にノルマを設定することです。従業員に「ノルマの妥当性の根拠」を説明できることが重要です。

3 ノルマ達成のための指示が不当なパターンとその対応

 

①のパターンです。

 

「商品を理解しなければ仕事はできない、そのためには商品を買う必要がある」「商品を理解しない者には仕事をさせるわけにはいかない」等と述べて従業員に物品を購入させる行為等が、不法行為となったり(東京地判平成20年11月11日)、パワーハラスメントになる可能性が高いです。

 

また、「親に頼んでもどうにか案件とってこい。」、「おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい」などと繰り返し述、ノルマ未達の従業員を「給料泥棒」等と罵り胸倉を掴んで罵倒するなどして、従業員に無用なゴールドカード等の契約を強要した事案(従業員は後に自殺)について、心理的負荷を「強」と判断し、自殺を労災とした事案などがあります(名古屋高裁令和6年9月12日判決)

 

対策としては、業務指示の内容の変更です。顧客開拓方法の指導等、従業員がコントロールできる行動に着目した指導が必要です。

 

4 ノルマ未達成時の制裁が不当に重たい場合

②、③のパターンです。

 

例えば、営業職として中途採用した従業員のノルマ達成率が30%、解約率76%であったこと等を理由に解雇した事案で、裁判所は、解雇を無効と判断しています(東京高裁令和元年5月6日判決)。

ノルマを達成していないというだけでは、解雇や懲戒処分は認められないというのが裁判所の考え方です。

 

不利益取り扱いについて、例えば、賞与の増減、歩合給の変動、昇給への影響であれば、不当な不利益取り扱いとはなりにくいです。

 

他方、懲戒処分、歩合給ではない給与の減額などは合理性を欠く等として無効になりやすいです。

特に給与の減額は、同意を得たとしても、真摯な同意がないとして、裁判所が同意は無効であり賃下げを認めないということもあります。

 

5 ご質問への回答

会社では、従業員に商品(単価1万円程度の金融商品)の販売ノルマを課しており、中にはノルマが達成できない人が自分で商品を繰り返し買っているとのことです。

 

他の従業員も達成できていない、優秀な従業員しか達成できていない等の場合には、ノルマが過大なために達成できていない可能性があります。この場合は、ノルマの見直しにまず取り組むことが考えられます。

 

ノルマ未達時の上司の言動に問題があることが疑われる場合には、上司の言動について裏付け調査を行い、必要に応じて指導を行います。裁判例のように自殺等に至った場合には、会社はパワハラを理由に1億円近くの損害賠償責任を負うこともあります。そのため、迅速な対応が必要です。制裁が不当に重いパターンも同様です。

 

なお、ノルマ未達成の原因が従業員個人にある事案もあります。例えば、テレアポを積極的に行わない、お客様への提案が誤っている等です。このような場合には、書面による業務指示などを活用して改善の機会を付与すること、担当顧客を変えること等の対応になります。